岩手県農業研究センターの現状と課題


岩手県職員労働組合試験研究機関連絡協議会 

1 はじめに
 岩手県農業研究センターは平成9年4月1日に発足した。これ以前は農業試験場、蚕業試験場、園芸試験場、畜産試験場の4場所により農業に関する試験研究がなされていたが、
・新たな試験研究ニーズや地域課題への適切な対応
・試験研究の効率化とともに時代を先取りした試験研究の推進
・県内の農業を確立していくための先導的役割を果たしていくこと
などを目的に上記4場所が統合して試験研究施設の高度化、研究支持体制の整備を図ったものである。 とはいえ統合前は職員から合理化を名目にした職場環境の悪化を懸念する声があった。平成8年には主管課長交渉により「センター化」の情報をできるだけ職員に知らしめるように、また規模に沿った人員・予算の配置をするよう要望した経緯があった。 そこでセンター発足後丸三年を経過して統合前後をふりかえり、各専門試験場が統合された農業研究センターの意義、今後の問題点等を検討してみたい。

2 統合前後の比較
(1)組織・体制 センター統合前の平成8年度における農業試験研究体制は冒頭にも触れたが、各分場等を含めてセンター統合がどうなったのか詳しく述べると、
@農業試験場本場、蚕業試験場本場、園芸試験場本場、同大迫試験地を統合し、北上市にセンター本部を設置。
A農業試験場県南分場および園芸試験場南部分場をそれぞれ銘柄米開発研究室、南部園芸研究室と改称。
B農業試験場県北分場、園芸試験場高冷地開発センターおよび蚕業試験場一戸分場を統合し、軽米町に県北農業研究所を設置。
C畜産試験場を畜産研究所に改組。同外山分場および種山肉牛改良センターをそれぞれ外山畜産研究室、種山畜産研究室に改称。
 また平成9年度時における研究体制は図1のとおりである。

(2)人員   平成8〜11年度の職員数の推移を表1に示した。平成9年度のセンター発足後も平成10年には繭品質評価分室の設置、専門技術員室のセンター配置などがあり、さらには平成11年度にはセンター本部のマーケティング研究室が2年足らずでなくなるなど流動的な動きをした。また平成11年度には前年度より7名( 内訳:研究職4、行政職1、技能職2)減と大幅な職員数の削減があった。

(3)予算・施設  センター発足時の用地・施設の面積等について表2に示した。これ以前の各試験場毎の面積の一部は平成8年度の主管課交渉資料のなかから引用(一部修正)すると次のとおりである。


 上の数値は北上市のセンター本部に係る面積の比較であり、圃場の増面積に見合った雇用の確保を要求した資料である。これらの数値が示すとおり、農業研究センター(特にセンター本部)は統合により以前より広い耕地面積を確保した。
 次に予算に関して表3に示した。平成8年度の各試験場の合計予算と比較すると平成9年度は事業を含む試験研究費および管理運営に関する予算は大幅に増えているが、人件費は減少した。
(4)一人当たりの試験研究課題数と成果
 体制・施設等は整備されたが本来の業務はセンター発足後どうなったかを評価する一つの指標として、一人当たりの試験課題数と成果数を見てみることにする(表4)。 一人当たりの試験研究課題数はセンター統合前後で比較すれば若干増えているものの成果数は大きく増加した。

3 農業研究センターの評価および問題点
(1)組織体制および人的・予算等に関すること
 いくつかの表で見たとおり現時点で組織体制は概ね定まり、予算面については統合前の各試験場の合計額より予算を確保していることは試験研究の合理化、専門化に対応できることとして評価される。しかし、平成9年度の人件費が前年度より少なかったことを見ると統合前の我々の「圃場面積増に見合う雇用の確保」の要求は残念ながら達成できなかったように思われる。また、令達事業費を見ると試験研究費と比べてほぼ倍の予算額になっている。このことは試験研究以外の業務量がかなり多いということで、人員は増えずに業務は増えて、試験研究の内容は高度化する現状では、一人一人の研究員は重い荷物を背負っていることになる。さらにセンター本部の圃場面積は大きく増加したが、技能職員は増加していない。圃場管理は研究の一環であるが研究員が圃場管理するのではさらに業務量の増大につながる。
 農業研究機関の技能職員は資格を有して当たる業務が少なくない。また経験をつんだ上で研究成果に結びつく業務でもあるから、研究機関の技能職員は「合理化」といえども人減らしの対象にすべきでない点がある。

(2)試験研究成果に関すること
 センター統合後試験研究成果の数は大幅に増加した。このことはセンター統合の評価される点と思われる。これは今までの成果の位置づけ(区分)として「普及」、「指導」に加えて「行政(行政施策に反映すべき成果)」と「研究(研究開発に有効な成果)」の4つに整理されたことがあると思う。
 これ以前は行政的あるいは研究的な成果は直接農家の技術に適合しないとの意見がしばしば研究会議で出された。しかし近年は先端的な技術開発に携わっている研究室があることや研究ニーズが幅広くなり、必ずしも「農家が使える技術」ばかりが成果でなくなってきている。
 もちろん研究成果は数だけで評価するのは不十分である。これに対応するものとして研究成果のレビューが平成11年度から実施された。レビューとは外部の専門家からセンターの各研究室で行った今までの試験研究内容を評価してもらうことである。試験研究はひとりよがりになることは許されないことであり、この意味では部外者からの評価は厳として受け入れるべきと考えられる。しかし、農業研究センターの試験研究は研究室単位でなされるが現在の多様化する研究分野においては実際のところ担当研究員一人が担当する課題が少なくない。問題は上の研究評価が個人的な能力の評価につながる危険があり得ることである。
(3)企画調整のセクション
 農業研究センターには新たな組織として企画調整を担当する企画情報室が設置された。
 このセクションは室長以下6名(うち研究職5名、行政職1名)からなる。また業務は試験研究の企画・調整、管理、情報システムの運用に関する事柄である。試験研究課題は個々の室員(研究員)は持っていないが、センターの試験研究のコントロールタワー的な存在というべき面を持っている。センター発足後こまごました業務をこなしてきた彼らであるが、今後推進すべきはセンター内外の試験研究のコーディネートであると思う。
 近年研究ニーズとして耕種、畜産等が連携して当たるべき課題がいくつかある。たとえば有機栽培、土づくり、環境問題など大きな課題、かつ迅速な対応をすべき課題である。このような課題に対してはプロジェクト的研究の推進を図る必要があると思われる。こうした取り組みを総合的に企画調整するセクションが必要で、この業務をするならば企画情報室の意義は大きい。

4 今後の対応
 いままで述べてきた問題点をまとめると次の2つに要約される。
(1)職員数の減が今後もありうること。
(2)本県の農業のための試験研究をいかにして効率的に推進していくか。
 (1)についてはどの職場でも直面している問題であろう。この問題についてはねばり強く組織的な交渉を続けることが肝要と思われる。我々は所長交渉、主管課長交渉など今までも実施してきたが今後も続けていくことが必要である。要求どおりの結果にならないことがあっても要求しなければ何も残らない。
 (2)は大きな問題である。農業と一口に言っても研究分野は幅広い。いろんな研究がなされているが、本県の農業のために一つ一つの成果をどう組み立てていくか常にセンター職員各人が考えていく必要があろう。
 今後の農業の展開を考えると狭い視野でなく、広く問題を捉えて対応する必要があると思う。先にも触れたがプロジェクト的対応が今後さらに重要になると思っている。

5 おわりに
 農業研究センター統合は市町村合併と共通点があると思う。
 市町村合併のメリットとして
・行政サービスの高度化、充実化
・地域振興・開発に関する広域的重点的取り組みが可能
・行政の効率化
などなど農業研究センター統合の際にもなんだか聞いたことがあるような事柄である。
 どちらも評価は具体的成果をあげてこそなされるもので、総論だけの統合、合併ではなく、問題解決型の統合、合併でありたい。

 表1  平成8年〜11年の職員数


表2 センター発足時(平成9年)の用地・施設の面積等

 

表3 農業研究センターに係る予算

表4  一人当たりの試験課題数と成果数

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