地域保健プロジェクト報告

≪ はじめに ≫

 

 自治労では、地域保健法をめぐって、公衆衛生議論が展開され、広域的・社会的視点で健康課題を捕らえる公衆衛生の有用性は認めつつ、許認可や管理・隔離・社会防衛的な機能の側面から、批判的な評価を行ってきました。また、「住民と共に」という方針を標榜しながら、自治体(行政)主導で保健事業を展開してきたことも否めません。

 老人保健法以来進められてきた保健事業のメニュー化と事業量による評価は、市町村保健事業の住民ニーズに基づく地域独自性を失わせました。

 また、地域保健法では、基礎自治体である市町村の保健事業は「サービス」が強調され、機能強化を求められた保健所は統廃合や事務の市町村移管に伴う人員削減により、情報分析・地域診断などの公衆衛生機能を十分果たせなくなっているのが現状です。

 今回設置された地域保健プロジェクトでは、サービスそのものを否定するところではありませんが、そのことによって,結果として生じた公衆衛生の形骸化に歯止をかけ、従来の管理的側面を排除し、「住民との協働」「社会保障的視点」を重視し、「生命」「生活」「生きる権利」をまもる公衆衛生の確立に向けて作業を進めています。

 これまでの労働組合のスタンスとして、中央で組織方針や組合員の行動方針を決定してきましたが、今回のハンドブックは組合員が悩んでいることを組合員達の知恵と力で解決しようとする、あるいは取り組んでみた結果国や自治体の施策の欠陥が見出せるような物にしようと考えています。

 現時点では、非常に漠然とした表現の仕方しかできていませんので、精査が必要ですが、@住民の視点A住民参画BエンパワーメントC価値観の違いD自己決定と自己責任E自分達の健康は自分達でまもるF対立の構図と相互理解の構図G反対と協働H民主主義I担い手である私と住民である私J危険(不合理)を危険(不合理)と言えない公務員意識K加害者の側に身を置いてきた公務員(ハンセン氏病・障害者・感染症患者)L労働組合の役割は?Mヘルスプロモーションの視点で政策闘争を展開する・社会環境を整える取組み等に拘りながら仕事をしている、あるいは悩んでいる自治体の仲間から情報をいただき、その事例を基に組合員に考えてもらえるよう、問題提起をしたいと思っています。

 

総 論

 

 過去の公衆衛生の変遷と自治労運動

 自治労は、72年の保健所問題懇談会答申の「県型保健所の統廃合案」に端を発した「保健婦闘争」「保健所闘争」「公衆衛生闘争」に取組み、わが国の公衆衛生の基盤について検討を進め、全国的な体制整備「住民に答える保健所づくり」運動を展開してきました。

 その間、国民の健康づくり運動、老人保健法の制定等、保健事業の実施主体が県(保健所)から市町村に移行する動きが見られ

ることになります。

とりわけ、地域保健基本問題研究会から地域保健法をめぐる論議の中では、従来の県型保健所を公衆衛生の中核センターとしてきた考え方を、市町村と都道府県保健所との連携・協働により公衆衛生・地域保健活動を展開することとしました。さらに、住民主体のヘルスプロモーション(資料−@)を基本的視点に置き「健康なまちづくり」に取り組むこととしてきました。

厚生省の動き・自治労の運動展開(未定稿)

年度

国の動向

 自治労運動

47

47

48

50

56

 

58

60

 

65

68

 

 

72

72

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

81

保健所法制定

児童福祉法制定

母子衛生対策要綱の決定

精神衛生法制定

地方自治法の一部改正(指定都市制度の発足)

国民保険法の改正

「保健所運営の改善について」(型別保健所編成)

精神衛生法改正

「保健所指導要綱の近代化について」基幹保健所構想

 

地域医療体系の具対像(日本医師会)

保健所問題懇談会基調報告

地域保健対策要綱(案)」

「国民の健康づくり対策」についての考え方

・自分の健康は自分で守る

・婦人の健康づくり(栄養改善地区組織活動)

・市町村における母子保健対策:16ケ月児健診

・市町村保健センターの整備

・都道府県衛生部に指導保健婦配置(HCではない)

老人保健法制定(老人保健事業の市町村実施)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1回保健婦(所)集会

68基幹保健所構想反対(保健所強化のたたかい)の方針決定「保健所法に基づく保健所の数の拡大」

73「住民にこたえる保健所づくり」方針決定

「行政責任を放棄した包括医療に反対」

「人口10万人に1カ所の保健所を」

「住民3500人対1人の保健婦を」

77「国民の健康づくり運動(市町村保健センター)」反対の見解

 

 

 

 

81「老人保健法案」に対する自治労見解

「健康・疾病の自己責任と受益者負担の医療制度」

「保健・医療・福祉の総合化の視点が欠落」

「公衆衛生の行政責任の形髄化」

「市町村と保健所の連携および機能強化を」

保健所闘争から「公衆衛生闘争」へ

 

年度

 

 

83

85

87

 

88

89

89

90

90

93

93

94

94

94

95

95

97

98

 

2000

 

精神衛生実態調査

医療法改正(医療計画を保健所が策定・圏域設定)

「地域保健将来構想検討会」発足

精神保健法制定

地域保健将来構想検討会報告書

老人福祉8法改正(市町村実施)

老人保健法改正(訪問看護制度の創設)

ゴールドプラン

「地域保健基本問題研究会」設置・同報告書

障害者基本法制定・精神保健法改正

地域保健法制定

地方自治法の一部改正(中核市・広域連合)

地域保健対策に関する基本的な視点

食品衛生法、栄養改善法、薬事法の改正

精神保健福祉法

保健所権限移譲実施

介護保険法制定

障害者プラン

21世紀における国民の健康づくり運動(健康日本21

8183 公衆衛生全国統一闘争(30分スト)

82 「忘れられた国民の健康」を発行

83 精神衛生実態調査反対闘争

 

公衆衛生闘争総括運動と方針づくり

 

地域保健将来構想検討会への意見提出

新たな公衆衛生闘争方針の具体化に向けて

作業委員会報告(生活衛生業務・医療監視業務)

 

地域保健基本問題研究会への自治労意見書提出

 

地域保健プロジェクト「高齢社会対策・基本政策

の確立」

地域保健プロジェクト第1次報告

同「保健と福祉の連携について」

 

保健・医療・福祉ネットワーク活動担当者会議                               

健康日本21と第4次保健計画に対する自治労見解

 

 

地域保健法から5年間を振り返って

 地域保健法制定をめぐって、自治労は、@地方分権の重視A市町村の基盤整備B保健所(公衆衛生)の機能強化C従来の行政

 区の重視等の視点を同法及びその基本的指針に盛り込ませる取組みを行いました。

 現実には、97年以降、地域保健法及び基本指針に基づき、全国各地で保健所・市町村保健センターの改編作業が進められ、次の表に示すような大きな変化が見られています。

 

H8→ H12

政令指定都市

(H8→ H12)

中核市

(H8→ H12)

特別区

(H8→ H12)

その他の保健所設置市(H8 H12

市町村保健センター

H8 H12

保健所数

623 460

122 70

0 27

53 26

47 11

保健センター

5

0

0

6

1,408 3,419

保健婦数

5,496 4,620

3,136 4,167

 

14,306 15,355

保健と福祉の

組織的統合

 

 

                ※市町村保健センター数には類似施設11191施設を含む

                ※191未設置市町村数:571h12

 地域保健法制定から5年を経た今日、職場では「人が足りない」「予算が足りない」「国のメニューに振り回されで忙しい」など様々な問題を抱えながら、住民に応える地域保健活動を目指した取組みを展開しています。

 97年の方針で示しているように「生命を衛る」「生活を衛る」「生きる権利を衛る」という、本来的な公衆衛生の視点を取り入れた「健康なまちづくり」に照らした取組みが求められています。健康なまちづくりという視点で課題を整理すると、次のようなキーワードが挙げられます。

 

住民の視点・住民参画・エンパワーメント・価値観の違い・自己決定と自己責任

自分達の健康は自分達でまもる・対立の構図と相互理解の構図・反対と協働・民主主義

担い手である私と住民である私・危険(不合理)を危険(不合理)と言えない公務員意識

加害者の側に身を置いてきた公務員(ハンセン氏病・障害者・感染症患者)

労働組合の役割は?(ヘルスプロモーションの視点で政策闘争を展開する・社会環境を整える取組み)

 

概念の整理をすべき今日的なテーマ

@新たな健康観の創造

 ・根源:生きる、生活、生き様、

A健康日本21のスタンス

B人権を尊重するということ

C住民主体とは

D生活エリアで物事を観る

E広域的に物事を観る

F管理か、支援か、協働か?(サービスという言葉)

 ・保健所の市町村支援あるいは協働

  ○協働活動

   ○2次医療圏単位の視点に基づく支援

 ・保健スタッフの住民支援あるいは協働

○サービスという言葉‥・基本指針に多用されたが、我々の仕事はサービスなのかどうかの議論が必要

G企画・調整は何のため?

     ○縦割り組織の見なおし、総合力の発揮  →  課を超えたチーム

     ○職員の資質向上

     ○管轄区域

     ○予算

     ○情報…収集と活用

I機能強化はできたか(何のため?)

○「機能強化」生き残りのために使われた言葉に終わっていないか

○政策形成能力

○職員問の議論ができるか

J過疎の状態をどう捉えるか  ←――→  市町村合併をどう扱うか

・肉体的な健康しか見えないと「金がない」「施設がない」となってしまう。

・棚田体験、盆踊りに都会から人が集まる。それは、なぜ?

・農村空間と人間性の確保

 K財政的基盤の確保(補助金・交付税)

 L市町村には公衆衛生の力はないのか?

 Mルーチンワークに追われる?

 N問われる保健婦・専門職種の役割

 O職員の資質の向上  ←――→  労働組合の役割

 P環境(食品)衛生と健康

 Q健康危機管理

 

以上の観点から、第2次地域保健プロジェクトでは、組合員の学習資料、単組執行部・県本部・中央本部における検討素材として本報告書をまとめることとしました。


自治労が目指すもの

公衆衛生の原点に帰る

○ 「公衆衛生」を行政の基本に据える

○ 新たな健康観の創造

○ 地方自治l地方分権の視点で健康を考える

○ 健康課題を、住民・事業者・行政の協働で解決する

 

「公衆衛生」を行政の基本に据える

 

 行政の基本的視点は、「生命を衛る」「生活の安全を衛る」「生きる権利を衛る(人権を尊重する)」という視点が必要であり、それはまさに公衆衛生の原点でもあります。

 公衆衛生職場で働くわたし達が「生活者の視点を大切にする」とともに、地域住民に「公衆衛生の視点がある」という状態を確認し合い、住民に必要とされる仕事がしたい。

 「生命を衛る」「生活の安全を衛る」「生きる権利を衛る(人権を尊重する)」という、公衆衛生の原点に立って仕事をすることが重要です。

 また、地域住民が公衆衛生の視点を持つことにより、住民に必要とされる仕事を、住民とともにしたい。

 

地方自治・地方分権の視点で健康を考える

 

 住民の健康づくりは、地方自治の本旨に沿って、住民の自己決定力を支援し、経済的基盤を大切にしながら、地方自治体として取り組むことが必要とされます。

 地方分権がさらに推進される時代において、自治体では地方自治の本旨である、公衆衛生の原点を再確認し、行政組織全体で住民の健康づくりに取り組む責任があります。そのためには、地域の経済的基盤を整えることや、住民の自己決定力をエンパワーメントすることを、住民と共に実践していくことが重要です。

 地方自治・分権の考え方を踏まえ、公衆衛生の原点に戻り、行政の経済的基盤を固め、行政責任を明確にして、住民の自己決定力を支援し、安心して暮らすための健康づくりに取り組む。

 

健康課題を、住民・事業者・行政の協働で解決する

 

 疾病予防の保健行政から、QOLの向上を目指す本来の公衆衛生行政へのパラダイムシフトを図るためには、

住民・事業者・行政が一緒になって健康課題に関する認識を共有化することができるかどうかが問われている。

 従来の保健行政を振り返ると、「御上」と言われた行政が衛生教育と言う名のもとに、住民を説得し、抱き込み、予防事業(保健事業)を押し付けてきた傾向が見られる。また、関連する機関や事業者とは「連携」といいながら、同様に抱き込み押し付けてきたと言えることではないか。一方、職場ではときとして「住民はわがまま」という言葉が使われることがあるが、住民からの相談を苦情として処理してきたきらいがある。

 これらのことを総括し、新たな展開として、納得と合意と選択をキーワードに、受け手の側と提供する側が情報を共有化し、双方向の対話を始めることにより、相互理解がうまれ、おまかせ型社会から生活者参画型コミュニティへの方向転換が可能となる。

 今、社会的に大きな課題として取り上げられている、閉じこもりや心の問題、思春期のサポートネットワーク、STD、若年者の妊娠・出産、子育て(虐待)、高齢者の痴呆、介護者の支援等については、納得と合意と選択のもとに意思決定された(単なる行政施策ではない)社会的施策として対応しなければならない。

 これらのことから、公衆衛生の展開に向けて、教育、医療、福祉分野をはじめ、住民や事業者との協働体制を整備することが求められている。

※バラダイムシフトとは

従来の既成概念から脱却し、新たな価値観に基づく概念を築き上げること。

 

健康危機管理

 和歌山カレー中毒事件を契機として、健康に大きなダメージを与える事態への対応策としての健康危機管理体制の整備が進められている。食中毒の予防と事件処理、O157、感染症予防事業など、従来から進められてきた保健所機能の一つではある。

 精神保健福祉法や感染症新法が制定され、人権に配慮した制度の導入が始まっているが、「健康危機管理」の体制整備により、保健所が永年果たしてきた精神衛生対策、結核・伝染病予防対策、食品衛生対策などから保健所における「警察行政」「社会的防衛の砦」の復権につながる危機感を抱かざるを得ない。一方では、産業活動を保護する立場から公害の規制緩和が行われ行政機構から「公害対策」を標榜する組織が姿を消してきた。

 また、核燃事故等、これまでに経験したことがなかった健康危機に保健所がどのように対応できるかが問われている。

精神保健福祉で言われる患者移送感染症対策と危機管理  こころの健康  社会的防衛と危機管理  少女拉致 乳幼児虐待

 

 


 

プロジェクトメンバーのスタンス

自治労運動の歴史と総括

2次地域保健プロジェクト:

厚生省の施策に反応してきた従来の公衆衛生闘争・保健所を守るたたかいから、市町村の体制整備の拡大に向けた地域保健の取組みを経て、住民の生活や地域を基本的視点に置いた新たな「公衆衛生方針」に転換しようとすることを提起する。

「健康」なまちづくりを実践する観点からヘルスプロモーションを新たな公衆衛生活動の基盤に据える。

本書作成の目的と活用方法

○地域保健法以後の自治労理念と運動を振り返り、新たな公衆衛生の取組みの方向性を探る。

○初任者執行委員のハンドブック(これ1冊で保健スタッフと仲良くなれる)

○組合員が活用できる

○組合員以外でも読める

○自治労以外のメディアが跳びつく(PRをしてくれる)

○仕事の悩みが解決できる

○マニュアルにしない(考えるヒントが見れる ⇒ 答を出すのは本人達)

○資料集の一部に掲載するのではなく、独立した冊子とする

○どう使ってもらえるかを考える   (集会で使う、単組で使う、職場で使う、地域で使う)

 

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